脚本[ 骨董屋百貨堂 ]

(同時公開:『 夕焼け泥棒 』



メイン画像


ボイスドラマ

『 骨董屋百貨堂 』 〜隠された時間〜


 ・端葉智久(Hashiba Tomohisa) :
 ・鳥塚賢一(Toritsuka kenichi):
 ・間宮静音(Mamiya Sizune)  :


  ***

時計の秒針が時を刻む。
柱時計が5時の鐘を鳴らした。
そして再び百貨堂に静けさが戻る。
秒針の音だけが響く。
そこに、重なるように足音が混ざってくる。
ゆったりとした足取り。
カーテンを引く音。
ゆったりとした足取り。
走り来る足音
ドアのベル。
静音「あの、」
智久「はい?」
静音「アンティークの百貨堂さんって、ここですか?」
智久「え? ああ、はい」
静音「よかった」
智久「申し訳ありませんが、5時を過ぎましたので…」
静音「もう、閉店ですか?」
智久「ええ、閉店の時間です。お引取りください」
静音「あの、ちょっと相談がありまして」
智久「申し訳ありません、ここは買取と販売のみを行っております、相談事はちょっと……」
近づくもうひとつの足音
賢一「智久? お客さんか?」
智久「ああ」
賢一「もう、閉店の時間ですので、申し訳ございませんが、どうぞお引取りください」
静音「あの、……この人に紹介されて来たのですが…」
賢一「名刺?」
静音「どうぞ」
賢一「ちょっと失礼……」
智久「まさか? あいつ?」
賢一「うん」
智久「山崎…。まぁ、いいか」
賢一「じゃあ、まぁ、立ち話もなんです。どうぞ中へ」
静音「ありがとうございます」

足音×3

タイトル『骨董屋(アンティーク)百貨堂』


智久「で? 相談事っていうのは?」
静音「言っても、信じてもらえないと思いますが…」
智久「なんですか?」
静音「気づいたら、時間が飛んでいるんです」
智久「時間が飛ぶ?」
静音「はい。さっきまでお昼の3時だと思ったら、気づいたら夜の9時になってて…」
智久「あ〜、はいはい」
賢一「なるほど」
静音「…信じてもらえませんよね」
智久「あるよな?」
静音「え?」
智久「賢一?あるよな?」
賢一「あるね」
静音「誰に言っても信じてもらえませんでした。お二人もそういう経験/あるんですか?」
智久「昨日、ありました。昼飯を食べて、確かそれが1時前で――、次に気づくと、6時でした。」
賢一「ま、昨日だけじゃないよな」
静音「本当に!」
賢一「ま、こいつの場合、寝てただけですけどね。そこで」
智久「だから、閉店時間なんて、まぁ、あって無い様なもの/なんですけど」
静音「違うんです!そういうんじゃなくて、」
賢一「智久君、違うんですって」
智久「あらら」
静音「私は、寝てもいないし、ちゃんと、部屋で普通に過ごしていたんです。
   5分も経っていないのに、次に気づくと、時間が過ぎていたり、逆に、戻っていたり」
智久「戻る?」
静音「はい」
賢一「時間が戻るのは、無いね」
智久「うん、ないね。…ん〜」
 考え込む賢一と智久。
 俯いて、静音が言った。
静音「もう、誰に相談していいのかわからなくて、誰にも信じてもらえなくて。
   だけど、山崎さんが、お二人なら、信じてくれる。解決してくれるって」
智久「ん〜、そう言われてもね。僕たちはそういうのの解決屋じゃないですから」
静音「でも」
賢一「同じような体験をしたことが無いので、どうにも」
静音「そうですよね」
智久「僕らはただの骨董屋です。
   どうすることもできないですし、もう閉店の時間も過ぎましたので、どうぞ」
智久&賢一『お引取りください』

 また静音は俯いている。
 静かになった瞬間、百貨堂の店内にある例の柱時計が時を報せた。
 その音は、3回。

静音「あ」
賢一「今、なんか鳴った?」
智久「うそだろ?」
静音「ほら」
賢一「智久、ちょっと、カーテン」

 カーテンを開けると、外から昼の日差しがあふれてくる。

賢一「マジですか」
智久「昼の、3時」
静音「あの、信じてくださいますか?」
賢一「ん〜」
智久「さっき5時になったと思ったんだけどなぁ」
静音「相談、乗っていただけますよね」
賢一「ん〜」
智久「3時か」
静音「ほら、あと2時間ありますし!ね」
賢一「(ため息)」
智久「じゃ、あと1時間だけですよ」
賢一「おやつにしようか、3時だし」
静音「あ、これ、もって来たんで、食べませんか?」
賢一「お! 智久、お茶、淹れて」
智久「はいはい」
 立ち上がり給湯場へ向かって立ち去る智久
賢一「いやぁ〜、いいね。十日堂(トーカドー)のシュークリームじゃないですか!」
静音「甘いもの平気でした?」
賢一「うん、平気平気。ぜんぜん平気。大歓迎。あけていい?」
静音「どうぞ」
賢一「あらら6つも。申し訳ないですね。 智久〜まだ〜食べちゃうよ〜」
 戻ってくる智久
智久「お湯はさっきのがあったから、すぐ入れるよ。紅茶、大丈夫です?」
静音「はい」
 テーブルに茶器が置かれる音がする。
静音「きれいなティーセットですね」
智久「まぁ、腐っても骨董屋ですから」
賢一「うわ、うま。これうまっ。」
智久「あ、なに食ってんだよ」
賢一「おいしいね、やっぱトーカドーのシュークリーム」
静音「よかった」
智久「今日は、アッサムのシーズナルです。
   一応、ストレートがお勧めですが、まぁ、苦手でしたら砂糖とミルクもありますので」
静音「ありがとうございます。あ〜いい香りですね」
智久「よかった。じゃあ、僕もいただこうかな」
賢一「えー、お嬢さん、では、そろそろ本題に入りましょうか。
   時間も時間だ。いつ過ぎるともわからない」
智久「ちょっと、俺、まだ食ってねぇし」
賢一「今から、カルテのようなものを作ります」
 立ち上がる賢一
静音「は、はい」
 壁の本棚からファイルを取り出す。そして戻ってきて椅子に座る賢一。
賢一「では、智久君、」
智久「いやいや(笑) 俺にも食わせてくれたっていいじゃん、シュークリーム」
 その瞬間、柱時計の鐘が時を刻む。9回。
賢一「なにを甘いことを言ってるんだね。もう、9時だよ、9時」
智久「いやいやいやいや、じゃ、僕も、いただきまーす」
 パシっ!
智久「痛っ! なにすんだよ」
賢一「もう、9時です。おやつの時間ではありませんよ。智久くん」
智久「かっこつけても説得力無いからね?口の端にカスタードクリームつけて言ってても」
賢一「ん、あ。とれた?」
静音「はい、もう大丈夫です」
智久「じゃあ、まぁ、食べながらね、話のほうは」
 バシっ!
智久「痛っ!なにすんのお姉さんまで!」
静音「もう、おやつの時間は終わりですよ、智久くん」
智久「えー」
 柱時計が11回鳴る
智久「うそー」
賢一「じゃあ、はじめますか」
静音「はい」
智久「ん、もー」
 紙の音がして、ボールペンのカチッという音がした。
智久「じゃ、名前」
静音「間宮静音です」
賢一「どうやって書くの?」
静音「あいだ、門構えに日に、竜宮のぐぅ」
賢一「ああ、これで『まみや』ね。下の名前は?」
静音「静音。しずかなおとと書いて、静音です」
賢一「へぇ〜」
 ボールペンで紙に字を書く音がする
賢一「どうぞ、智久くん」
智久「年齢は?」
静音「18です」
賢一「はい、うそつかない」
静音「24です」
賢一「24」
智久「どこ生まれ?」
静音「東京です」
賢一「東京。っと」
智久「趣味は?」
静音「読書と、音楽鑑賞、あとドライブと…」
賢一「もう一個」
静音「骨董市めぐりです!」
賢一「いいよ、無理しなくて」
静音「ごめんなさい」
賢一「読書、音楽鑑賞、ドライブ。っと」
智久「(食べながら)あ、うめぇ。えっと、身長」
静音「155です」
智久「体重」
静音「え?」
智久「スリーサイズ上から」
静音「え?」
智久「彼氏は?」
静音「え?」
賢一「はい、どうぞ、お答えください」
静音「あの、これ、関係あるんですか?」
 柱時計が4時を告げる
智久「うまいね、このシュークリーム。中の生クリーム、いいね」
賢一「智久、食ったことなかったの?」
智久「うん。なかった」
 おもむろに立ち上がる賢一
静音「あの、ちょっと、どこ行くんですか?」
賢一「音楽でもかけようかと思って」
静音「ちょ、ちょっと」
智久「いやぁ、うまいね。シュークリーム。十日堂ってエクレアやってる?」
静音「エクレア、たしかありました。って、あのですね、
   関係あるんですか?って聞いてるんです!今の質問」
智久「え? 嫌なら、仕方ないよね?」
 賢一がもどってくる。
賢一「うん。仕方ないね」
智久「どうぞ、」
智久&賢一『おひきとりください』
静音「ちょ、ちょっと」
智久「じゃあ、彼氏は?」
静音「え?……い、います」
智久「そっか、仕方ないね?」
賢一「うん。仕方ないね」
智久「どうぞ、」
智久&賢一『おひきとりください』
静音「え?うそ、なんで?」
智久「え?だって」
賢一「ねぇ?」
智久「つまんないじゃん」
静音「ごめんなさい、うそつきました」
智久「そうなの?」
静音「うそです。彼氏いません」
賢一「あ、そっか」
智久「それも、それで」
賢一「ね?」
智久「なんかね?」
賢一「残念だね」
静音「なんなんですか?!」
賢一「まぁ、別に」
智久「なんでもいいんです。」
 柱時計が2時を告げる
智久「じゃぁ、そろそろ本題にはいりますか」
賢一「ですね」
智久「で――、いつからですか? この奇妙な現象は?」
静音「えっと、一週間前ごろからです」
智久「なにか、変わったことは?」
静音「えっと…」
智久「とくに無しか…」
 柱時計が10時を告げる。
静音「祖父が亡くなったんです。」
賢一「……」
静音「その遺品を、孫の私もいただきました」
智久「どんなものを?」
静音「万年筆と、腕時計と、あとこのレコードです」
賢一「万年筆に、腕時計。レコード?」
智久「今、持ってます?」
 ハンドバッグの中から万年筆を取り出し、机の上に置く静音
智久「これですか。」
静音「はい。」
智久「この万年筆、いいものですね。賢一も見る?」
賢一「ああ」
静音「あと、これがレコード」
智久「音楽、こういうのも聴くの?」
静音「ほとんどCDです。今、私の家に再生できるデッキが無くて。」
賢一「音楽、変えてくるよ」
静音「いいんですか?」
賢一「聞きたいしね」
  立ち上がる賢一。数秒後音楽が変わる。
静音「それと、いま着けているのが、祖父の腕時計です」
智久「じゃあ、それも、見せてもらっても?」
静音「それが…」
 柱時計が2時を告げた。
静音「外せないんです」
智久「外せない?」
静音「だから、こうして着けたままで…」
智久「この一週間?」
静音「はい」
賢一「気づいたのは、いつ?帰ってから?」
静音「はい。家に帰って、外そうと思ったら…」
賢一「はずせなかった」
静音「はい」
智久「あやしいね」
賢一「あやしいっていうか、」
智久「それじゃん。」
静音「え?」
智久「外せないんでしょ?」
賢一「のろわれたね」
静音「えー!」
智久「♪ちゃらちゃらちゃらちゃらずん/」
 柱時計が1時をつげる
智久「(口を押さえられて)んー。なにすんだよ賢一」
賢一「だめだ」
智久「よくあるじゃん、ゲームとかで」
賢一「だから、この話自体がお蔵入りになっちまうだろ?」
智久「あ、ごめんなさい」
静音「なんの話ですか?」
賢一「いえ、こちらの話です。」
静音「はぁ。」
賢一「よくあるんです。モノには、思念というか、そういうのが宿りやすい、特に――」
智久「誰かに愛され、大切にされたものには、魂が宿る」
静音「それが、この腕時計に?」
智久「ま、かもしれない。ってだけだけど。でも、よかったね。これで解決じゃん」
賢一「だな」
 柱時計が1時を告げる
静音「ちょっと、待ってください」
智久「へ?」
静音「はずせないんです」
智久「いいじゃん。時間わかるし」
賢一「はずせないとこまでは、当方は、どうすることも。」
智久「だって、」
賢一「なぁ」
智久「『ただの骨董屋ですから』」
賢一「『ただのアンティークショップですから』」
智久「賢一、合わせようよ」
賢一「アンティークっつったほうがカッコイイべ?」
智久「『べ』ってなんだよ」
賢一「じゃあ、アンティークっちゅーたほうがかっこいいけんのぉ」
智久「そこじゃないだろ?」
 笑っている二人
静音「ちょっと!」
賢一「じゃあ、なに?『骨董屋でごんす』がいい?」
智久「ごんすって、しかも誰だよ?」
静音「すみません」
賢一「ごっつぁんです」
智久「だから誰だよ?」
静音「(ため息)」
賢一「じゃあ、あれだ、『拙者どもは、ただの骨董屋でござんす』」
智久「ござんすって。古くね?」
賢一「アンティークですから」
智久「おぉ。いやいや/無理あるだろ?」
静音「あんたら!ええかげんせんかい!われぇ!(どすの聞いた声で)」
智久「ぉお」
賢一「ぉお」
智久「いまのだよ。いまの」
賢一「かっこいいね」
静音「ちょっとまじめにやってください!」
賢一「まじめだよね?」
智久「うん。いたってまじめ」
賢一「出身は?」
静音「岩国です」
賢一「なんだよ、地元、本家じゃん」
智久「岩国って?」
賢一「山口県。」
智久「いまの方言、ホンマもんやがな」
賢一「下手だなーおまえ、方言真似すんの?」
智久「だって、難しいって。ホンマもんヤガナ?」
静音「違います、ホンマもんやがな。です」
 柱時計が10回鳴りはじめる。
智久「ぉお」
賢一「ぉお」
 二人、拍手しながら
静音「ちょっと照れるじゃないですか?やめてください」
智久「なんか、こう自然に言えるって、素敵だね」
賢一「少しは見習ったらどうよ?」
智久「方言っていいね」
 柱時計が10回鳴りおわる。
 鳴り終わりにあわせて、拍手も終わる。
 二人は座る
 照れている静音
智久「さて、続けましょう」
賢一「いつまでも突っ立ってないで、どうぞ座ってください」
静音「…」
 無言で座る静音
智久「モノには、魂が宿るんです。特に人に愛され、大切にされたモノには」
賢一「その逆も、もちろん。負の感情も、人間の心が生み出すものですからね」
静音「――負の感情、」
賢一「どう思う?」
智久「悪いものじゃ、無いと思う。賢一は?」
賢一「俺もだ」
静音「どういうことですか?」
賢一「こんなに穏やかな主張をするのは、たいてい、優しい感情が宿ったものです」
智久「ひどいやつは、窓ガラス割れたり、だれかを死に追い込んだり」
静音「え!」
智久「あなたの場合、特に激しい異常は無い。危険なこと、ありました?」
静音「いえ」
賢一「それに、その腕時計を使っていたのが誰かわかってるでしょ?」
静音「祖父です」
智久「で、あなたが遺品として受け取った。もう、これは運命です」
静音「…運命。」
 静かに腕時計を見つめる静音。
静音「でも、いくつもあった中から、3つだけを選んだんです。」
智久「どういう理由で選んだんですか?」
静音「思い出の中に、いつもあったから」
 万年筆を手に取る静音
静音「私、おじいちゃん子なんです。
    ふるさとの山口で、私は生まれたときから、ずっと、
    祖父と、父、母、兄、飼っていた犬の廉太郎と暮らしていました」
智久「廉太郎?」
静音「父と母は共働きで、兄と私は年が8つ離れているのであまり遊ぶことは無くて」
賢一「なるほど」
静音「私はずっと、祖父と一緒にいました。保育園への送り迎えも、祖父が来てくれて。
    大学へ、進学が決まって、私は東京に出てきました。
    こっちで一人暮らしをはじめて、祖父は毎月必ず、手紙をくれました。
    母に、この万年筆で書いてたのよって、教えてもらいました。」
賢一「なるほど」
智久「…廉太郎…」(小声で)
静音「祖父が亡くなった日、お葬式が進んでいく間、ずっと祖父のことを思い出していました。
    だから、一番にこの腕時計を頂いたんです。
    保育園の送り迎え、小学校に上がっても、中学にあがっても、高校生になっても
    午後から急に降り出した雨の日。
    いつだって、祖父は、この腕時計をつけて、私の傘を持って、『かえろうか』って」
賢一「なるほど」
智久「…廉太郎」(小声で)
静音「傘を受け取るとき、おじいちゃんの腕に、この時計がありました」
賢一「いい思い出ですね」
静音「祖父との思い出はまだまだいっぱいあります。一緒にお散歩したり、一緒に音楽聞いたり」
賢一「人は、二度死ぬと言います。」
静音「二度?」
賢一「ええ。一度は、物理的に。生命を失うとき。」
静音「はい。」
賢一「二度目は、人々の記憶から、消え去る瞬間だと」
静音「記憶から」
智久「廉太郎」(小声で)
賢一「そう。だから、大切にしてあげてください。思い出を。
    あなたの心の中にたくさんある、その思い出を」
静音「はい」
智久「あー!」(大声で)
 柱時計が6時を鳴らす(裏でならしてて)
智久「タッキーか!」
賢一「え?!」
静音「なんですか?」
智久「いや、なんでもないです(笑いながら) なんでもないです。
    だから、人は二度死ぬんです。うんうんいい言葉だ(笑)
    1UPきのこが必要だ。うんうん」
賢一「まぁ、気にしないで。いつものことなんで」
静音「気にしないでって…気になりますよ」
賢一「話、戻しますけど、だから、その腕時計も、大切にしてあげてください。あ、あと、万年筆も」
静音「はい」
賢一「いや、解決したよ。智久が滝廉太郎の名前を思い出してる間に」
智久「そう。どっかで聞いたな〜と思ったんだよ。音楽の教科書だったかーあーすっきりしたー」
静音「あの、」
智久「なんでしょか?」
静音「どうやったらはずれますか?この、腕時計?」
 沈黙の間。柱時計が静かに12時を告げた。
智久「ん〜」
賢一「ん〜」
智久「難しいね?」
賢一「難しいね?」
智久「どうしようね?」
賢一「どうしようね?」
智久「とりあえず、」
賢一「12時なんで、お昼御飯にしましょう」
静音「あの、まじめに考えてくださいよ!」
智久「考えてますよー」
賢一「まぁ、そうあせりんさんな」
静音「あせりんさんなって、あなたどこ出身なんですか?」
賢一「秘密です。秘密は、男の財産です」
 柱時計が1時を告げる
静音「はぁ。」
智久「頭を使うときには、糖分が必要って言うでしょ?」
静音「そうなんですか?」
 柱時計が3時を告げる
賢一「あ、3時だ。おやつの時間ですね」
智久「まぁ、なんでもいいから、とりあえず、シュークリーム食べません?」
賢一「智久? お茶、おかわり」
智久「んもーしかたないわねぇ。静音さんも、よかったらどうぞ、シュークリーム。
    十日堂のシュークリームは並ばないと変えないってうわさなのよ〜」(おばさんっぽく)
静音「は、はぁ(困って苦笑)
賢一「だれだよそれ」
智久「え?となりの斉藤さんの奥さん」
賢一「似てねー」
智久「んぼー、しかたないわねぇ」
賢一「だから、似てねぇーっつの。」
  笑いあう2人
智久「あーそうだ、お祖父さんのことで、質問、いいですか?」
静音「は、はい」
智久「お祖父さんはいつもつけていたんですか? その時計」
静音「ええ」
智久「時間を気にする職業だったりとかですか?」
静音「いえ。そういうわけじゃありません」
智久「お祖父さんの趣味は?」
静音「趣味ですか? ん〜と、散歩と…音楽を聴いたり…
    あと、手紙を書いたり!お友達にも出してました!」
智久「好きな曲とかありました?」
静音「好きな曲ですか?この曲、今かかってるこの曲。」
智久「この曲?」
静音「おじいちゃんも聞いてました。いろんな曲をたくさん聞いてたんです。
    でも、必ず、最後にこの曲」
智久「最後?」
静音「いくつか聞くんです。でも、必ずこれを…締めっていうか、もう習慣みたいなものなのかな?」
智久「いい曲だね」
静音「私も好きです」
賢一「あ、最後の一個。シュークリーム、もーらい」
智久「あ、ずりぃ」
賢一「あ、そうだ、時間は?」
智久「その時間、決まってたりしなかった?」
静音「えっと、夕方です」
智久「夕方。」
静音「祖父が話してたことがあったんですけど、この曲、おばあちゃんが好きだったんだ、って。
    一緒に、というか、祖父が音楽をかけるから、部屋の中で一緒に聞くじゃないですか?」
智久「うん」
静音「祖母が、『この音楽好きです、』って言った日から、必ずこの曲を最後に。
    それを聞き終わって、祖母は晩御飯の仕度を始めるんだって。
    それが二人の毎日だった。って。
    だから、おばあちゃんが亡くなってしまってからも、一日の最後はこの曲って決めてるんだ。って」

  その曲が終わって、

智久「それが、だいたい、5時くらい」
静音「だったような気がします」
  柱時計が5時を告げる
  それを聞いて、沈黙。そして、二人は頷いた
智久「あー」
賢一「そゆことか」
智久「ですね」
賢一「だよな?」
智久「うん」
静音「音楽と関係あるんですか?」
智久「もう、はずれますよ腕時計」
静音「え?」
  腕時計が外れる音
静音「あ。ホントだ」
智久「(背伸びをする)ん〜〜!」
静音「どうしてはずれたんですか?この時計」
賢一「おじいちゃん、聞きたかったんです」
静音「え? でも、私、何度もCDは聞いてました。それじゃ駄目だったんですか?」
智久「音にこだわってんだね」
賢一「というか、レコードに針を落とすのが好きだったんじゃないかな?」
静音「針を?」
智久「きっと、おばあちゃんが亡くなった後も、おじいさんは、おばあちゃんと一緒に聞いてたんだよ。
    『あのレコード盤』の、音楽を。
    だから、あなたをここまで連れてきたんだ。」
賢一「アンティークショップなら、一台くらいはあるでしょ?そのレコードを聴くための道具が」
智久「おじいさん、あなたと一緒に聞きたかったんじゃないですか?」
静音「……おじいちゃん。」
智久「だから、5時になる瞬間を隠してたんだよ」
    大好きな音楽を、大好きな孫と。そうじゃないと、5時は来ないでしょ?」
静音「そうですね。でも、いつわかったんですか?」
智久「まぁ、はずれたんだからいいじゃないですか?」
静音「どうして腕時計はずれるってわかったんですか?それだけ教えてください」
智久「そんな気がしただけです。なぁ?」
賢一「そんなもんです。…でも、まだひとつわからないことがある」
静音「なんですか?」
賢一「5時もなかったんだけど、あと、7時と8時も無いんだ」
智久「あ〜、なかったね」
賢一「あなたがここに来て、時計が何度か、えーっと、」
智久「14回鳴りました」
静音「数えていたんですか?」
智久「まぁ。」
賢一「3時、9時、11時、4時、2時、10時、2時、1時、1時、10時、6時、12時、1時、3時。
    この無作為な感じがどうもひっかかる」
智久「てきとーじゃね?」
賢一「そんな気もするんだけど…。考えすぎかな」
智久「考えすぎだよ。時計も無事はずれたし。いいじゃない?」
賢一「そうだな」
静音「うそ」
 静音は呟くように言った。
智久「どうかした?」
静音「もう一度、教えてください」
智久「え?」
賢一「3時、9時、11時、4時、2時、10時、2時、1時、1時、10時、6時、12時、1時、3時。」
静音「…おじいちゃん」
智久「なんかあった?」
静音「それ、全部、私がお見舞いに行った時間です。」
智久「え?」
静音「7時と8時が無いのは、病院の面会時間が午前9時から、午後7時までだからです」
賢一「なるほど。朝も夜も、7時と8時には行けないと。」
静音「私、仕事が休みの週末におじいちゃんの病院に行ってたんです」
智久「山口まで?」
静音「はい。
    最初の3時はこの日。土曜日の15時ごろ。翌日の日曜日は実家から行ったので朝の9時。
    次の週の土曜日が、朝11時。新幹線で着いて、そのまま病院に行きました」
賢一「次が4時」
静音「それは、その日の夕方。おやつを買って、また戻ったんです。おじいちゃんのところに。
    次が一週間後の日曜日。2時。仕事があって、とんぼ返りでした。」
智久「来てくれるのが嬉しかったんだね」
静音「山口に帰れない週末もあって、
    だけど、病院に行く度に、あの曲をCDでしたけど、イヤホン肩耳ずつはめて。聞いてました。一緒に」
智久「おじいさん、待ちどおしかったんだね。あの曲を一緒に聞けるのを楽しみにして。
静音「でも、ホントは、元気になって、退院して、家で、そのレコード。
    聞きたかったんだと思います、おじいちゃん。」
智久「うん」
静音「だけど…
    私、おじいちゃんが亡くなった日、間に合わなかったんです、病院に。
    お見舞いに行くたびに、『また来るけぇね』って約束して。
    おじいちゃん言ってたんです。「『また来るけぇね』ってええ言葉じゃのぉ」って。
    だけど、最後にした約束、守れなかった…『また来るけんね』って、私言ったのに」
智久「大丈夫だよ」
 柱時計が、5時を告げる
 賢一が立ち上がり、レコードをとりにいく。
智久「ほら、『ありがとう』だって。」
静音「うん、はい」
――静音は頷いて、「はい」と言って笑顔をつくった。
 もどってくる賢一。その手には、レコード盤。
賢一「はい、レコード」
静音「ありがとうございます。本当に、ありがとうございました」
智久「大切にしてあげてください。そのレコードも、腕時計も、おじいちゃんとの思い出も」
賢一「それと、万年筆も」
静音「はい。」
智久「では、5時になりましたので、閉店とさせていただきます。
    どうぞ――
智久&賢一『おひきとりください』


 -end-