Sense Lack Project

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ここでは、ボイスドラマに仕上げた作品の脚本を公開しています。
読みながら聴いてみたり、実際にやってみたりしてみてください。
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#005 『 伊都伎の沖に朱を夢見て 』(いつくのおきに、あかをゆめみて)  <読む>

 登場人物 : 2人 (男2名)
 完成作品 : 約15分(SE込み)  

 配役
 宮大工 若衆 弥七(やしち) 
 平清盛  


***

SE:波音

弥七(N)
「昨日、ひとつうわさを耳にした。
 大和にある京の都から、役人がこのいつくしまに参列に来るんじゃと。
 まったく、お役人の考えっちゅうのは、ようわからん。
 確かに、この島のやしろは、ユイショ正しいアレじゃあいわれちょる。
 じゃけど、まったくのおんぼろで、海の潮風から守るために必死ではやした
 いくつもの杉の木の所為で、情緒もへったくれもあったもんじゃない。
 うちの棟梁も、もったいない、祭られとる三人のひめみこさまにも失礼じゃぁ、っちゅーて、なげいとるのを聴いたことがある。
 じゃけど、」

清盛が馬に乗り、降りて、弥七のそばに近づいてくる。
>SE:馬の足音
>SE:止んで、降りる音。
>SE:近づいてくる足音。

清盛「おい、そこの、」
弥七「・・・」
清盛「おい、そこの、若いの」
弥七「ん?」
清盛「お前だ、お前」
弥七「わしかぇ?」
 弥七立ちあがる
清盛「そうだ、」
弥七「なんでしょ?」
 尻をはたく音
清盛「みかさの浜は、どこにある?」
弥七「みかさ?」
清盛「そうだ、みかさの浜だ」
弥七「あぁ、そこ」
清盛「そこ?」
弥七「ここから見えちょる入り江が、ぜーんぶそれじゃ、みかさの浜じゃ」
清盛「・・・ここか」
弥七「わしらは、みかさ、なんちゅう呼び方はしよらんです」
清盛「なんと呼ぶのだ?」
弥七「そこのアレじゃ、いうて」
清盛「(笑)なるほどな」
弥七「名前なんちゅうもんは、たいしたもんにしかついとらんですけぇ」
清盛「・・・」
弥七「・・・」

SE:馬が鳴く

弥七「馬、ですか?」
清盛「借り物だ。お前、ここで何をしておった?」
弥七「え?
    あぁ、昼飯を食うちょりました。
    ここに、こうやって、よいしょ」
弥七座る 土の音
弥七「ここの海を見ながら、飯を食う」
清盛「贅沢だな。んしょ」
座る音
弥七「そんな、あんたさんも土の上に座ったりしたら、着物がワヤんなります」
清盛「かまわん。」
弥七「あーあ」
清盛「まったく、贅沢じゃないか」
弥七「ぜいたくといわれればぜいたくなんかもしれんですなぁ。
    ただ、」
清盛「ただ?」
弥七「わしは、いやなことがあったときにだけ、ここにきてしまいます」
清盛「いやなこと?」
弥七「ええ、うまいことできんと、棟梁におこられてしもうたり、
    カンナが、こう、曲がって入ったり」
清盛「大工か?」
弥七「ええ、宮大工の見習いをやっとります」
清盛「ここにはよく来るのか?」
弥七「ええ、そりゃもう、毎日」
清盛「あははははは」
弥七「笑い事じゃぁ、ないんじゃ。(ため息)」
清盛「良いことだ。苦労したものは、その分、報われる。
    たごりのひめと、いつきしまのひめみこ。それから、たぎつのひめみこのご加護がある」
弥七「そうは、思えん。毎日毎日。ひめみこさんがたもわしを見てわろっちょる」
清盛「なにかやらかしたのか?」
弥七「え?」
清盛「昨日は?」
弥七「昨日は、ノミをいらんところにいれてしもうたし、」
清盛「おとといは?」
弥七「ゴサクの、あぁ、えっと、同じ大工の兄弟子のごさくなんですが、
    こーんな鼻した、、
清盛「ごさくのなんだ?」
弥七「小さい、カマセを、こういう」
清盛「ん?」
弥七「こういうカタチに削りだす、ちっちゃいあれです」
清盛「あぁ」
弥七「それを、わしは・・・」
清盛「・・・」
弥七「木屑といっしょに捨ててしもうた」
清盛「あーあ」
弥七「ほんまにあーあ、じゃけぇ(ため息)」
清盛「それで怒られたのか?」
弥七「そんなんばっかりじゃ」
清盛「そういう日には、ここにくるのか?」
弥七「はい」
清盛「なぁ?ちょっと聴いてもいいか?」
弥七「なんでしょ?」
清盛「ここの浜は、風は強いのか?」
弥七「風は・・・普段は穏やかなもんです。こんな感じで。でも、一旦荒れると」
清盛「波は?」
弥七「波もおんなじじゃ、ふだんはこんなに静かなのに、
    一旦荒れだすと、手がつけられん。」
清盛「満ち干きは?」
弥七「いま、ちょうど満ち潮です。ここから見える、右手の、あっちのあの奥、
    大潮の時は、わしの身丈とちょうど同じくらいまで潮がくる」
清盛「そんなにか?」
弥七「そんなにじゃ。」
清盛「引き潮は?」
弥七「ここいらぶわーーーっと、浅瀬んなります」
清盛「そんなにか」
弥七「そんなにじゃ」
清盛「お前は、どうして宮大工を続けている?」
弥七「え?」
清盛「どうして宮大工をやめない?」
弥七「そりゃ、やめたら、生きていかれんです」
清盛「それだけか?」
弥七「わしは、しちにんきょうだいの、末っ子じゃけぇ」
清盛「末っ子?」
弥七「あにきやらは、畑じゃ、魚じゃぁ、いうて、生きるんに必要なことを、
    家族のためにやっちょります。
    じゃけど、7男坊は、もう、やるこたぁ、手伝いしかのこっちょらん。
    じゃけど、手伝いばっかりじゃ、つまらん。
    生きるためには、畑と、海と、着るための織物と、家がありゃええ。
    やしろを立てたところで、なんもならん」
清盛「生きるためには、祈りは必要ないか?」
弥七「食うもんと、着るもんと、寝るところがありゃあ、人間やっとれる」
清盛「まぁ、ひとつの真実かもしれんな」
弥七「じゃけんど、わしらがつらいとき、助けてくれる気がするんは、神様だけじゃ。
    それ以上でもそれ以下でもないですけぇ」
清盛「そうだな」
弥七「でも、わしは、宮大工になりたいと思うたんです。
    じゃけど、まったく、一人前になれる気配がありゃぁせん!」
清盛「理想が足りないんだ」
弥七「りそう?」
清盛「願いは、願っているだけでは叶わない。
    どうすればその願いをかなえることができるのかを、考え、行動することだ。
    なぁ?お前?」
弥七「・・・」
清盛「海に浮かぶ神殿というのは見たくはないか?」
弥七「海にうかぶ神殿?」
清盛「そうだ、瀬戸の波は、穏やかだと聞いていた、だが、私の想像以上だった。
    この入り江なら、その理想が現実に変るかもしれないと思ったんだ」
弥七「そりゃ、無茶じゃ」
清盛「何が問題だ?」
弥七「大潮の時に、海が荒れたら、ひっっくりかえる。
    床板なんか、杭が抜けて、海の向こうまでもっていかれてしまうのがおちじゃ」
清盛「可能にする術はないのか?」
弥七「ん〜、わしにはわからん・・・じゃが、」
清盛「・・・」
弥七「考えたら、考えた分だけ、なんか思いつくかもしれん」
清盛「海の上に浮かぶ社だ」
弥七「・・・・・・」
清盛「・・・・・・できると思うか?」
弥七「できるわけがない。
    できるわけがないが、頭の中でつくれたら、それはできるかもしれん。
    うちの棟梁がよく言います」
清盛「なんと?」
弥七「できるわけがないとあきらめとるからできんのだ、
    できんと思ったんなら、あたまをからっぽのバカにして、
    できたんだと信じてみぃ。そう言うんじゃ」
清盛「いい教えだな」
弥七「わしには、ようわからん。いや、ようわからんかった。
    あんたさんに会うて、バカみたいな、
    海に浮かぶやしろ?神殿?
    バカみたいなことかもしれんが、頭ん中に、ちゃんとできそうな気がしてしもうた」
清盛「そうか」
弥七「時間はかかるかもしれん、
    もし、わしが棟梁になって、もし、そんな大仕事を任してもらえるような、
    そんな、夢みたいなことがおこったら、
    うん。わしは、ついでに、変なもんをつくっちゃります」
清盛「へんなもの?」
弥七「あんたさんのバカな考えに、悪乗りしちょるだけじゃけんども、」
清盛「どんな大バカなかんがえだ?」
弥七「やしろだけでええんですか?」
清盛「どういう意味だ?」
弥七「どーせ、つくるんなら、鳥居もつくったらええ。
    神社にゃあ、鳥居がつきもんじゃ」
清盛「ほぉ、おもしろいじゃないか、」
弥七「ちょうど、あのへん、」
清盛「ああ、あのあたりか?」
弥七「そうじゃ、あのへんに、・・・こう。言うたら、」
弥七「『海の上に浮かぶ、大鳥居』」
清盛「『海の上に浮かぶ、大鳥居』」
弥七「(笑)」
清盛「(笑)、お前は、大バカだな」
弥七「小さいのんじゃ、流れていってしまうけぇ、流されんように、
    おおけなおおけな、わけのわからんくらいの、おおけなのがええ」
清盛「静かな波の上に映る、赤色の大鳥居か、美しいじゃないか。
    だったら、どうだ? 神殿も、赤一色というのは?」
弥七「はっはぁ、あんたさんは、よっぽどじゃ、
    丹(に)塗りも、朱(しゅ)塗りも、足りるわけがない」
清盛「こんなのは、まったくの理想にすぎんのかもしれんな」
弥七「じゃが・・・じゃが、死ぬるまでに、もしも見られたら、どんなにシアワセかのぉ」
清盛「もし、大和の都の役人が、やると言い出したら、どうする?」
弥七「そりゃ、その大バカのいうとおり、やらにゃぁいけんじゃろう。
    それがやれたら、どんなにシアワセか」

SE:馬の鳴き声

清盛「おっと、そろそろ戻らねばなるまい。よいしょっと」
立ち上がり、尻をはたく
弥七「あーあ、せっかくの着物がワヤじゃ」
清盛「たいした問題じゃない、土がつくか、馬の毛がつくかの違いだ」
SE:馬の鳴き声
清盛「どうした?」
弥七「昼飯の時間じゃろ?」
清盛「あぁ、そうだな、長い道のりを走ってきたから、ゆっくり休ませてやったほうがいいかもしれないな」
弥七「温泉宿に、馬も入れてやったらええ」
清盛「そうだな。それがいい。あ、そうだ、お前、名をなんと申す?」
弥七「名前?名前なんちゅうもんは、たいしたもんにしかついとらんですけぇ」
清盛「
たいした者になるんだろう?」
弥七「やしち、と申します」
清盛「そうか」
弥七「もしかして、どこかのお役人さまでしたか?」
清盛「私も、たいした者ではない」
弥七「はぁ。よかった。ちょうど5日前に、棟梁に叱られたばっかりで、」
清盛「なんと言ってしかられたんだ?」
弥七「お前は、目上の人にたいする礼儀がなっとらんと」
清盛「あはははは、それは、そうかもしれんな。
    弥七、」
弥七「なんでしょ?」
清盛「いつか、私の名前を聞くことがあるやもしれん」
弥七「なんと?」
清盛「キヨモリだ、知っておいて損は無いと思うぞ。
    ありがとう、いい時間を過ごせた」
弥七「わしもじゃ、道中、気をつけて」
清盛「また会おう。せい(馬を出す掛け声)」

SE:馬鳴く
SE:馬走る

弥七(N)「お役人のような、お役人で無いようなその人は、
      足の速い毛並みの良いその馬で駆けていった。
      その後、私は、宮大工としてとある京の都のお役人から、
      みことのりを受けることになる。
      あの日語り合った、大バカふたりの夢物語を、この手で現実のものとするために。」


   -end-


『 伊都伎の沖に朱を夢見て 』(いつくのおきに、あかをゆめみて)
 キャスト
 宮大工 弥七 
 平清盛     




※使用している記号について
・SE …… サウンドエフェクト 効果音
・M …… 音楽 挿入曲  (文色では、演出上必要な場合にのみ記載。たいていの場合、音響の判断でつけるようにしています)
・(N) …… ナレーション  (文色では、演出上、モノローグ(独白)のような場合もある 今回の物語ではモノローグ的な演出)
・FO …… フェードアウト (効果音に関する指定)
・/ …… 台詞のカットイン (重ね入り)