Sense Lack Project

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ここでは、ボイスドラマに仕上げた作品の脚本を公開しています。
読みながら聴いてみたり、実際にやってみたりしてみてください。
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#006 『 さよなら、おはよう 』  <読む>

 登場人物 : 2人 (女2名)
 完成作品 : 約25分(SE込み)  

 配役
 江崎 純子 (ezaki jyunko)    女性
 桑島 沙織 (kuwashima saori)  女性


 SE:オートバイの音
 SE:クラクション
江崎「さおりっ!さおりっ!こっち」
 SE:駆け寄る足音
桑島「どないしたん?じゅんちゃん?うっそ、オートバイなんかいつ買うたん?」
江崎「ふふふ、まぁね」
桑島「免許、大型必要なんちゃうん?」
江崎「そうや」
桑島「いつ買うたん?」
江崎「旦那にツーリング行こ、言うて」
桑島「あー、そっかそっか、旦那ちゃんは昔からバイク好きやぁ言うとったもんな」
江崎「そ。無理して2台」
桑島「おかねもちー」
江崎「旦那ちゃんの知り合いにバイク屋さんおってな、」
桑島「うん」
江崎「カタオチや、言うて、1台分で2台もろうたんよ」
桑島「うまいことしよって」
江崎「買いモンは値切ってなんぼやって」
桑島「主婦根性だしまくりやん」
江崎「まかしてぇや」
桑島「にしても、ピッカピカやんか?」
江崎「あたりまえよ」
桑島「え?まさか?」
江崎「昨日届いたばっかりや?」
桑島「ホンマに?!」
江崎「ウソ言うてもしゃーなやん。はい、さおりのヘルメット」
桑島「ん?うちの?」
江崎「あたりまえやん。ちゃんとかぶれる?」
桑島「うん、大丈夫」
江崎「こっち。これ通して、そっち」
桑島「あ、こっち?」
江崎「うん。大丈夫やね」
桑島「うん。」
江崎「足、こっちとこっち」
桑島「あー、なんか、ひさしぶりやな。ジーンズはいて来てぇっていうからなんでなんやろ?って思っとったのに」
江崎「うちも久しぶりや。こども生まれてからバイクは乗らんかったしな」
桑島「じゃあ、後ろに乗るんは、うちがはじめて?」
江崎「残念。昨日の夜に旦那とニケツ」
桑島「相変わらず仲良しやな。えーこっちゃ」
江崎「でも、うちが後ろやったから、うちの後ろは初めてや」
桑島「二人乗り大丈夫なん?」
江崎「さぁ?どうでしょ?」
 SE:エンジンふかす音
江崎「よいしょっと、ほな、行きますか?」
桑島「どこまで行くん?」
江崎「ひみつー」
桑島「えーー、教えてーな」
江崎「ひみつー。あ、そういやぁ? さおりもバイク乗ったことあるん?」
桑島「ん?・・・・・・まぁずいぶん昔の話な」
江崎「そっちも、おしえてーよ」
桑島「ひみつー」
江崎「しっかりつかまってや」
桑島「出発しんこー」
 SE:走り去るバイク


江崎:タイトルコール『さよならおはよ』


 SE:バイク、緩やかに走って止まる
 SE:ブレーキ
 SE:エンジン音切る

桑島「なんや、見たことある景色や思ったら」
江崎「ちゃんと覚えてんの?」
桑島「忘れるわけないやん、うちのトリ頭でもちゃんと覚えとるわ」
江崎「あ、古典だけは得意やったっけ?」
桑島「授業それ以外なんかあった?」
江崎「ないない(笑) ヘルメットそこ掛けとき」
桑島「うん」
 SE:足音2つ 少し行って、立ち止まる
桑島「意外と、近かったんやな」
江崎「バイクやと、すぐよ」
桑島「ずいぶん遠くまで連れていかれた気ぃしたのにね」
江崎「中学生の自分なんてそんなもんよ」
桑島「あ、あれ!」
江崎「なに?どこいくん?」
 SE:走っていく足音
桑島「(遠くへ向かって)じゅんちゃん!これ、まだ使えるんかな?」
江崎「さおりー、これ、いくよー、それっ」
桑島「うそ!うそ!うそ!ちょちょちょっと捕れへん捕れへんって!」
 SE:落とすペットボトル
江崎「あーあ」
桑島「ミネラルウォーターで、呼び水?」
江崎「それしかないもん!」
桑島「ぜいたくー」
江崎「ぜいたくー」
桑島「(笑)」
江崎「(笑)」
桑島「使こうてええの?」
江崎「ええよ、」
桑島「ふとっぱら」
江崎「好きに使いー、アンタのや」
桑島「やと思ったー(笑)」
江崎「(笑)」
 SE:水を注ぐ
 SE:井戸のポンプ音
 SE:近づく足音
桑島「きゃっ、出た出た!」
江崎「あー、すごーい。まだ使えたんやね!」
桑島「あはは、つめったぁ。なぁじゅんちゃん?」
江崎「なに?」
桑島「飲んでも平気かな?」
江崎「お腹こわしてもしらへんよ?」
桑島「あはは、ママや。ちゃんとママやっとる」
江崎「上の子はもうすぐ中学校や」
桑島「えー、そんなんなる?」
江崎「あっという間や」
桑島「懐かしいな?何年たった?」
江崎「さぁな?自分の歳は知りたぁ無いわ」
桑島「歳とるなー」
江崎「やーなー」
桑島「……」
江崎「……」
桑島「……」
江崎「なぁ?さおり?」
桑島「ん?」
江崎「畑野んとこ、行こか?」
桑島「せやな。あ、水ここの井戸水持っていく?」
江崎「うん。っていうか、それでええんちゃう?そのペットボトル一本で」
 SE:井戸ポンプ〜井戸ポンプ止める。
桑島「(ため息)はぁあ。なんやろな?」
江崎「ん?」
桑島「わからんへんもんやな」
江崎「なにが?」
桑島「こうやって見とったら、人口の池でも無駄にきれいなんやもん」


江崎(N)「私たちはふるさとに帰ってきた。
      中学校のグラウンドから見下ろす景色。
      けど、私たちの村は、23年前、昭和の終わり。ダムの底に沈んだ。
      かやぶき屋根の家も、小学校も、駄菓子屋も文房具屋も、病院も。
      秋の収穫がいやになるくらい広かった、田んぼもすべて、
      今はきらきらひかる水面の下にある。
      私たちが過ごした場所。
      最後に残ったこの高台にある中学校も、廃校から24年。
      取り壊しが決まった。
      中学校の対岸。
      ちょうど反対側に、彼は眠っている。
      何も知らずに、ふるさとがダムの底に沈んでいったなんて夢にも思わずに。


SE:砂利道を歩く二人

江崎「ただいま」
桑島「かわって無いんやな」
江崎「墓石がすくすく育ってたりしてね」
桑島「雑草はのび放題やもんな」
江崎「やっぱり、遠いんやな、ここ」
桑島「そうかもな」
江崎「手ぇあわせよっか」
桑島「うん。……畑野、ただいま」

江崎(N)「私たちは村のはずれにある、畑野の、畑野悠太が眠る墓に来た」

 SE:ペットボトルの水流れる音
桑島「じゅんちゃん?」
江崎「ん?」
桑島「畑野ってな」
江崎「うん?」
桑島「生きとったら何してるんかな?」
江崎「何してるって?」
桑島「仕事、」
江崎「畑野ねー?なんやろねぇ? あ、ライター持ってる?」
桑島「あるけど? はい」
江崎「仕事ね?変なこと考えるんやね?さおりは」
桑島「そういうん、興味無い?」
江崎「ん〜、死んだ人間をどうのこうの言うてもな。もう、どうにもならんしなぁ」
 SE:ライター使う音
桑島「じゅんちゃん、線香、きちんと持ってきてたんやね」
江崎「こういうのはな、ちゃんとしとかんと。」
桑島「あ、うち、やってええ?」


江崎(N)「さおりがろうそくに火をともす。
      風に注意をはらいながら、小さなその火が消えないように。
      線香を傾けて、火を移すと、さおりは慣れた手つきで火を消した。
      線香の煙が真直ぐ空へと昇っていく。


桑島「なぁ?じゅんちゃん?」
江崎「ん?」
桑島「畑野がな、じゅんちゃんのこと好きって言うとった」
江崎「え?、いつ?」
桑島「中3になったばっかりのころ」
江崎「春?」
桑島「うん、春」
江崎「そんなことあったん?」
桑島「うん」
江崎「変なの」
桑島「変?」
江崎「うちには、さおりのこと好きかもって言うてたよ」
桑島「うち?」
江崎「そうや」
桑島「いつ?」
江崎「中2の終わり?」
桑島「冬?」
江崎「うん。冬」
桑島「意外と、移り気やったんかな?」
江崎「ん〜、なんて言うたらええんやろか?」
桑島「ん?」
江崎「うちには、『おまえらホンマ仲ええな』って」
桑島「畑野が?」
江崎「うん。でな、」
桑島「うん」
江崎「『俺がさおりのこと好きになってもええと思うか?って』」
桑島「じゅんちゃんはなんて言うたん?」
江崎「好きにしたら、て」
桑島「でも、じゅんちゃん、畑野のこと好きかもって言うとったやん?」
江崎「うん。せやから、うちは負けへんからな!って言うてやった」
桑島「え?」
江崎「うちからさおりをうばおうもんなら、覚悟しいやって」
桑島「なんそれ(笑)」
江崎「自分でもわからんけど」
桑島「畑野はなんて」
江崎「確信あるって」
桑島「え?」
江崎「確信しとるって言うてた」
桑島「……バレとったんかな?」
江崎「あー、たぶんそうやね」
桑島「……実はうちも畑野のこと少し……好きやったし」
江崎「うん。」
桑島「……」
江崎「……」
桑島「え?なんで?」
江崎「ん?」
桑島「なんでおどろかへんの?」
江崎「ん?なにを?」
桑島「うち、じゅんちゃんにはじめてこんなこと言うたから」
江崎「ん?なに?」
桑島「せやから、……畑野のこと好きやった。。。とか、そういうの」
江崎「え?! バレてへんと思うとったん?」
桑島「え?!」
江崎「あはははは(笑)、さおりらしいわ」
桑島「え?」
江崎「クラスのみんな知っててんで?」
桑島「みんな?」
江崎「知らんて思ってたん?」
桑島「うん」
江崎「3年最初の席替え、畑野の隣になったやん?」
桑島「うん」
江崎「あれ、できレースやってんで?」
桑島「え?」
江崎「くじひいたやろ?」
桑島「うん」
江崎「そのあとで、黒板に先生が数字をどんどん入れてったやろ?」
桑島「うん。うち、どきどきしながら見とった」
江崎「一番最後に、」
桑島「うん、うちの隣が畑野んなった。今でもドキドキする」
江崎「あー、言わんかったらえかったんかな?」
桑島「え?なんなん?」
江崎「うちが、先生に、さおりの引いた番号教えたんよ」
桑島「じゅんちゃんが?」
江崎「あんときのくじ、1番ひいたん誰か覚えてる?」
桑島「じゅんちゃん、いきなり当たった言うて」
江崎「畑野は引いてへんもん。あのくじ」
桑島「ひいてへんって?」
江崎「さおりの番号さえ入れたら、あとは、さおりの隣を最後に入れる」
桑島「うちの隣は最後まであいとった、先生、最後に42って入れた」
江崎「みんな応援しててんで」
桑島「知っとたんや」
江崎「ごめんな、黙ってて」
桑島「ううん。でも、最後の席替えんなったんやもんな」
江崎「畑野が入院したん、6月やったっけ?」
桑島「うん、6月。5月の1ヶ月とちょっとだけ隣におってくれた」
江崎「あっという間やったな」
桑島「うん。あっという間におらんようなってしもうた。
    ノート見せたり、消しゴム貸したり、数学教えてもろうたり。
    もっとしたかったんやけどな。
    風邪っぽいって、言うてただけやったんやけどな」


江崎(N)「畑野悠太は梅雨の季節が訪れた頃、病院へ入院した。
      私たちは、宿題のプリントや、給食のコッペパンを持って、
      毎日のようにお見舞いに行った。
      クラスの全員が、交代しながら、彼が淋しくないように。
      だけど、私たちはふたりで毎日お見舞いに行った。
      彼が教室に元気に戻ってくることを願って。
      桑島沙織が畑野悠太に恋をして、
      それに、畑野悠太も桑島沙織に恋をしていたから。
      クラス全員がそう思って疑わなかったから」


桑島「この村でな、一番きれいに朝日が見えとった場所、知っとる?」
江崎「え?どこ」
桑島「どこやと思う?」
江崎「神社の境内?」
桑島「ブー」
江崎「中学校?」
桑島「ブー」
江崎「どこ?」
桑島「ここ」
江崎「え?」
桑島「ここ」
江崎「ここ?」
桑島「うん」
江崎「見たことあるん?」
桑島「ある」
江崎「いつ?」
桑島「中2の終わり。中3になる年の春」
江崎「こんなとこまでどうやって来たん?」
桑島「畑野が、バイクで連れてきてくれた」
江崎「バイクって、免許無いやん?」
桑島「お兄ちゃんに乗り方教わったとか言うて」
江崎「ふたりで来たん?」
桑島「うん。ニケツして、ヘルメットうちだけかぶって。
   3時過ぎに迎えに来てくれて。
   だーれも起きとらへん道を、ここまで登ってきた。
   ホンマにきれいやったんやで。
   畑野が『一緒に来たかった』って」
江崎「なんやデートしたんやんか」
桑島「ちがうよ」
江崎「え?」
桑島「畑野が、『一緒に来たかったね、じゅんちゃんも』って」
江崎「え?」
桑島「畑野はな、じゅんちゃんのこと好きやったんよ」
江崎「それでずっと言えんかったん?」
桑島「うん、それもあるけど……」
江崎「あんたらよう似てるわ」
桑島「え?」
江崎「うち、ホンマはちょっとだけ後悔しとる」
桑島「なにを?」
江崎「席替えなんかしょぼいことせんと、無理やりくっつけたればよかったぁ、思うて。
   それか、うちが告白したったら良かったかな?って。
   畑野が言うたんよ。
   世界一、きれいに朝日が見える場所はどこでしょうか?って」
桑島「ここじゃなくて?」
江崎「うん、世界一」
桑島「世界一?」
江崎「『好きな人の、ひとみに映る朝日だ』って」
桑島「畑野、そんなこと言うとったん?」
江崎「あの顔でなー。
   似合わへんのにー。
   変に大人ぶってなぁ。
   真っ白い病室で、『体重また減った』とか笑いながらさ」
桑島「……」
江崎「『俺は、世界一の朝日見たんやで』とか言うて。
   どういう意味かわからんかった。
   けど、やっぱり、さおりのこと好きやったんやね。やっとわかった。
   『悪いけど、今死んでも後悔してない』とかぬかしやがって。
   バカとちゃうの、勝手に独り先に逝きやがって。
   うちにな、『さおりのこと頼んだで』言うて。
   『告白しようかと思うたんやけど、病気のことがあるから、告れん』って。
   あいつ、中学から転入してきたやん?」
桑島「うん」
江崎「田舎の、空気のええところで療養するためやったんやって。
   自分が生きてるんは、すでに奇跡なんやって」
桑島「知っとったんや?」
江崎「うん、いつ死ぬんかも、ぜーんぶな」


江崎(N)「畑野悠太は明け方の病室で息を引き取った。
      東の窓から差し込む朝日に包まれるように。
      そばに座った私に、笑顔で『じゅんちゃんおはよう』ってその言葉だけを残して」


 SE:遠くで雷鳴
江崎「雨、ふるんかな?」
桑島「西の空、曇ってきてんね」
江崎「ざーっと来る前に、帰ろか」
桑島「そうやね」
江崎「またくるわ、畑野」
桑島「またな」


江崎(N)「バックミラー越しに、畑野の墓がだんだんちいさくなっていく。
      中学の学ランを着たままのあいつが、元気に笑うて手を振っているような気がした。
      もし、畑野が生きてて、どんどんなくなっていくこの村を見たら、
      なんて言うやろ」


 SE:エンジン音 バイクが到着する

桑島「家の前まで送ってくれてありがとうな」
江崎「ええって、うちが誘ったんやし」
桑島「なぁ、じゅんちゃん?」
江崎「なに?」
桑島「やっぱり、じゅんちゃんのことやったんやな」
江崎「なにが?」
桑島「うち、こういうの鈍感なんかな?」
江崎「え?なにが?」
桑島「うち、畑野悠太と従兄弟やねん」
江崎「は?」
桑島「お墓まで原付でニケツして登ったんも、じゅんちゃんを連れてくるための練習。
    『俺は、世界一の朝日見たんやで』ってじゅんちゃんに言うたんやろ?
    最期に二人きりにさせてくれって頼まれたん、うちやもん。
    転校してきたすぐは、うちらも知らんかってん。
    親は知っててんけど、彼が亡くなるギリギリまで知らされてへんかった。
    淋しくなるやろうから、って。
    けど、知っとっても知らんくても、淋しかったんやけどな。
    初めて見る人やったし、少しだけ好きになったんもホンマやけど、
    うちら似とったやろ?
    だって、畑野はうちの従兄弟やったから」
江崎「じゃあ」
桑島「世界一の朝日は、ちゃんと見せてあげられてたんやって。
   最期看取ってくれたん、じゅんちゃんやったやん」
江崎「なんや、ドンカンなんは、うちのほうやんか」
桑島「もし畑野が生きとったら、どないする?」
江崎「あー、どうかなー? いうても畑野やしなー」
桑島「なんそれ」
江崎「ん〜、勤めとるお仕事次第やろ?」
桑島「うわー、現実的ー」
江崎「女なんてそんなもんや」
桑島「じゅんちゃんらしいわ」
江崎「家庭を守るっちゅうのんは大変なんよ?わかる?」
桑島「よう存じとります」
江崎&桑島『ね〜(笑)』
江崎「あー、でも」
桑島「なに?」
江崎「勤め先、病院の先生やったら考えたるわ」


   -END-


※使用している記号について
・SE …… サウンドエフェクト 効果音
・M …… 音楽 挿入曲  (文色では、演出上必要な場合にのみ記載。たいていの場合、音響の判断でつけるようにしています)
・(N) …… ナレーション  (文色では、演出上、モノローグ(独白)のような場合もある 今回の物語ではモノローグ的な演出)
・(笑) …… 笑い声もしくは、微笑を含んだ言葉遣いで。という演出指定に使用しています。 ・FO …… フェードアウト (効果音に関する指定)