Sense Lack Project

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ここでは、ボイスドラマに仕上げた作品の脚本を公開しています。
読みながら聴いてみたり、実際にやってみたりしてみてください。
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#007 『 優しくなれるあたたかさ 』  <読む>

 登場人物 : 2人 (男2名)
 完成作品 : 約10分(SE込み)  

 配役
 石野寛郎(いしのひろお):男性
 森田貴信(もりたたかのぶ):男性


石野「いやいや、かんべんしてくださいよー。
  そりゃ、わかりますよ?言いたいことは、ええ、充分に、十二分にわかっておるつもりです、
  いやいや、つもりではなくて、わかっております、わかっております。
  ――はい。
  はい、かしこまりました、はい、失礼いた、はい?
  ええ、もちろんでございます、はい、失礼いたしますー失礼いたしますー、はいー」


SE:受話器をおくガチャリ

石野「ったく、なんだよあのやろー、まじで、ふざけんな!
  どんだけこっちが気ぃまわしてると思ってんだよ。あーーーーー」
森田「どうしたんですか?」
石野「えぇ?」
森田「はい、お茶でも飲んで、落ち着いてくださいよ」
石野「ん?あぁ、わりぃ」
 SE:お茶を一口すする
森田「珍しいですね、石野さんがそんなにイライラしてるなんて」
石野「ふー。そうか?」
森田「ええ」
石野「お茶変えた?」
森田「お、さすがですね、気付いてくれると思ってましたよ、石野さんなら」
石野「だろ?」
森田「変えてませんけどね。あ、そうだ、高杉建設側はなんて?電話の相手、安居さんでしょ?」
石野「あれだよ、いつもどおり。見積もり結果見て、あーだこーだ言ってくる感じ」
森田「あぁ、なるほど。でも、それを見越してあの数字出してるんですよね?」
石野「まぁ、な」
森田「……」
石野「お茶っぱ、変えてない?」
森田「お茶っ葉は変えてません」
石野「ヤカン変えた?」
森田「ヤカン?なんでですか?」
石野「なんとなく」
森田「ヤカンは変えてません」
石野「あ、墨!」
森田「スミ?」
石野「あれだろ?お湯沸かすときに、びんでーたんだっけ?」
森田「備長炭でしょ?」
石野「そうそう、そういうのを、ぽちゃんって、やかんに」
森田「ヤカン、こだわりますね」
石野「おう、こだわりのヤカン、クオリティ」
森田「でも、なんで備長炭?」
石野「あれだよ、墨パワー」
森田「墨パワー?」
石野「なんか、墨のいい感じのアレが、水にアレしてくる、アレだよ」
森田「どれですか?」
石野「よくわかんない、昼休みにテレビでやってるの見ただけだから。
オカンが冷蔵庫に入れてたし」
森田「オカンですか」
石野「そう、こだわりのオカン、クオリティ」
森田「オカンですか」
石野「なんだっけ、オカンの智恵袋?」
森田「あぁ、なるほど、まぁ、悪くは無いですね、いい線いってる気がします」
石野「やっぱり、オカンか」
森田「オカンは変えてません」
石野「んじゃあ、オヤジか」
森田「何がかわったんです?」
石野「オヤジが、こう」
森田「どう?変わるんです?」
石野「こっから、こうやって、こーいって、(モーグルのジャンプ競技を彷彿とさせる感じで)
  こっから、テンエイティ決めて、からの!着地よ〜、おー」
森田「なんです?その指?」
石野「知らない?モーグル?」
森田「モーグル?」
石野「雪の斜面を駆け下りるあれ、タンタンタンタンって、行って
  そこからの、ジャーンップからのタンタンタンタン、トワーーーンって感じの」
森田「ジャンプと違うんですか?」
石野「ジャンプはこうだろ、こっから、こういって、こういって
  我慢して我慢して、我慢してーーーーーーよいしょーーーーーっといったーK点越えた!
  日本ジャンプ陣!なんとやりましたー準優勝!」
森田「そこは、素直に優勝でいいんじゃないですか?」
石野「森田、」
森田「なんですか?」
石野「わかってねぇなぁ、森田、準優勝っつーのはな、布石なんだよ」
森田「布石?」
石野「そう、布石、あの年の準優勝っつー、結果がな?その次の年の――SE:電話」

石野「はい、石野です、はい、ありがとうございます。
  えぇ、えぇ、はぁ〜、なるほど、はい。はい。
  それで、はい。はい、上から。わっかりましたー、ええ、はい。ありがとうございます。
  ええ、いやぁ、助かります、安居さんのおかげですよー、はい。
  ありがとうございます、あはははは、またまたぁ(笑)
  はい、はい、ありがとうございます〜、失礼いた、はい、はい、ありがとうございます〜
  また、そうですね、ぜひぜひ〜、ありがとうございます、
  ありがとうございます、はい、失礼いたします〜はい〜ありがとうございます〜あり」

石野「あのやろー、はやく切れよ」
森田「安居さん、なんて?」
石野「あぁ、いつもどおり、上からOK出たって」
森田「あの見積もりで?」
石野「まぁ、来週の金曜日、だから――まぁ丁度来週か、会議にかけて、それでOK出るでしょうと。
  会議にかけてる時点で決まりなんだけど、まぁ、よかったです、と。
  そんな感じでございますよ、森田くん」
森田「よかったじゃないですか」
石野「よくねーよ、会議にかけるってことは、その日の晩は、飲み会ですよ。めんどくせぇ」
森田「じゃあ、僕の仕事はひとまず終わりということで」
石野「お、お前も行くか?安居さんの飲み会?」
森田「い、いえ。遠慮しときます」
石野「おぉ、安い酒が呑めネェってのか?」
森田「はいはい」
石野「呑めねぇよ!呑みたくねぇよ!」
森田「今日はえらく愚痴りますね」
石野「まぁ、でも、こういう時は愚痴りたくもなるよ、
  うまくいってると、安心できる」
森田「だと思いました。ホントにシビアなときは優しいですもんね」
石野「森田、今回もよくやってくれたな」
森田「いえいえ」
石野「とりあえず、そうだな、ごくろうさん」
森田「どうも」
石野「次のも頼んだぞ」
森田「はい」
石野「で、なんだっけ?何か話してたよな」
森田「オカンが、」
石野「あー、そうそう、オカンがー、なんだっけ?
  あ!オカンがーオカンがーーーーーやったーK点超えたー、」
森田「こだわりますね」
石野「オカンやりましたーオカン優勝!です」
森田「オカンが優勝ですか?」
石野「そうだよ、日本のオヤジは、ずーーーとオカンに負け続けてるわけですよ」
森田「はぁ、」
 SE:お茶をすする
石野「あ、わかった」
森田「なんですか?」
石野「湯のみ」
森田「だれの?」
石野「森田の」
森田「それは、変えました。先週割れちゃったんで、変えました。   けど、石野さんのは変わって無いですよ?」
石野「だよなー、見覚えあると思ったんだよなー、もうこいつも、6年使ってるよー」
森田「6年ですか?」
石野「あぁ、こっちの部署に来る前だから」
森田「あぁ、なるほど」
石野「で、何変えたの?」
森田「ポット。電気ポット変えたんです、運動会の経費が思ったよりあまったから、
  1万5千円までなら、経費で落ちるって聞いたんで」
石野「いくらしたの?」
森田「128?」
石野「あぁ、せんにひゃく?」
森田「いえ?」
石野「1万2千?」
森田「ええ。お茶おいしいでしょ?」
石野「そうか?」
森田「でも、石野さんが言うんだから、間違いないでしょ?」
石野「まぁな」
森田「では、これで」
石野「あ、ちょいちょいちょい、電気ポットでそこまでかわるか?」
森田「内側の加工がちょっと違うんですって、それと、温度を設定できるものにしたので」
石野「温度?」
森田「ええ、日本茶は、60度から、80度くらいのお湯を使うのがいいんだそうです」
石野「へぇ」
森田「ですから、ポットの温度設定を使って、70度くらいにしておきました。」
石野「ほぉ」
森田「変わるもんでしょ?」
石野「やるなぁ」
森田「あと、お茶には、イライラを解消させる効果があるそうです」
石野「ほぉ」
 SE:お茶をすする
石野「うん、確かに」
森田「ホントかどうか知りませんけどね」
石野「ありがと」
森田「私は何もしてません」
石野「いや、上手に経費をごまかした」
森田「すみません」
石野「いいんじゃないか?みんな使うんだ」
森田「よかった」
石野「森田、もう一杯、お茶をいれてくれないか?」
森田「あ、はい、いいですよ」
 SE:足音
 SE:少し離れてお茶を急須で注ぐ音
 SE:戻ってくる
森田「はい、どうぞ」
石野「ありがとう。
  森田?緑茶にはな、カロチン、ビタミンE、ビタミンCその他たくさんの栄養素がある、
  抗酸化作用、血液循環、免疫力増進。
  鉄が錆びて紅くなるだろ?」
森田「はい」
石野「全部酸素の仕業だ」
森田「はぁ」
石野「人間は何を吸って、何を吐く?」
森田「酸素を吸って、二酸化炭素を吐く。ですか?」
石野「そうだ、まぁ、厳密には吸ってる空気の60%は窒素だけどな?
  だけどアレだ生きていくには、酸素が必要だ。
  だから、人間も、錆びていく、だから、お茶が必要だ」
森田「はぁ」
石野「オカンに伝えとけ、」
森田「はい?」
石野「今年の茶葉、少し早く摘みましたよね。って」
森田「え?うそ」
石野「どうだ?」
森田「石野さん、何者なんですか?」
石野「俺か? ワタクシ、森田の上司の石野です、どうぞよろしくお願いいたします」
森田「伝えときます」
石野「あ、あとな、今年も新茶をたくさんありがとうございましたって、
  みんなよろこんで飲んでますって、伝えておいてくれ」
森田「はい、ありがとうございます」
石野「森田、お前の実家のお茶を飲んでから、俺はお茶が好きになった」
森田「またまた」
石野「いや、ホントだ」
森田「また、送ってもらいます」
石野「ありがたいが、それこそ経費で落としとけ」
森田「はい、また上手にやらせていただきます」
石野「無駄に安くしてもらうなよ?買い叩くようなことはしたくない」
森田「はぁ。めずらしいですね、この業界にいるのに」
石野「もちつもたれつだ。この業界だからこそかもしれん。
  いいものは、いい。
  それだけの価値を持っているものには、それなりの対価をかけるべきだ。
  森田の実家のお茶はそれだけの価値をもってる」
森田「ありがとうございます」
石野「実家の畑は?」
森田「兄がやるそうです、もう、今年からもどってます」
石野「そうか」
 SE:電話
石野「おっと、仕事だ、資料、頼むぞ」
森田「はい」
石野「森田、人間も、70度くらいがちょうどいいのかもしれんな」
森田「そうですね」

 SE:ピッ
石野「はい、石野です、はい。ありがとうございます。
  ええ、はい、その件については順次手配を、
  え?はい、あぁ、もちろんです、ええ、はい――来週の火曜日あたり、
  ええ、はい、大丈夫です、はい」(F.O.)


 - END -


タイトルコール『優しくなれるあたたかさ』
    (読み:やさしくなれるあったかさ)
キャスト
いしのひろお:(役者名)
もりたたかのぶ:(役者名)





※使用している記号について
・SE …… サウンドエフェクト 効果音
・M …… 音楽 挿入曲  (文色では、演出上必要な場合にのみ記載。たいていの場合、音響の判断でつけるようにしています)
・(N) …… ナレーション  (文色では、演出上、モノローグ(独白)のような場合もある 今回の物語ではモノローグ的な演出)
・F.O. …… フェードアウト (効果音に関する指定)